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起業の支援・
仕事の進化の対話編~1

―― こうして話をしているうちに、漠然と考えていた自分の考えがまとまってきた、問われることに答えているうちに、自分のいいたかったことがわかってきた、これまで自覚していなかったことが、あたかもずーっと考えていたかのようにみえて、その言葉が自分に説得力を持ってきた――
このような経験があったとしたら、それこそ対話の力です。対話することによって、顕在化してくる力を起業や次の仕事、生き方に活かしていく、そんな役立つ対話をもっとすすめてみませんか。
わたしも実践してみました。

今回から、対話する方を訪ねるコーナーを始めます。
第1回目は、藤井まりさん、精進料理研究家です。

いまや日本各地だけでなく、世界のあちこちからもおよびのかかる人。
1か月の半分以上は精進料理普及の旅、また旅。
藤井さんのブログも「人生、また旅」

http://fmari28.ld.infoseek.co.jp/

実は、料理教室とは縁遠かったわたしへの娘からの誕生日プレゼントが、この教室への参加料でした。おかげで料理だけでなくたくさんの対話をすることができました。

<パリではけんちん汁が好評でした>

大塚 昨年12月に9日間のまりさん流精進料理教室のパリ・デビューいかがでしたか。

藤井 過密スケジュールでしたが、娘(和西小牧)はじめ若い人が助手に付いてくれたのでほんと、よかったです。

大塚 小牧さんも小さい子をちゃんと留守宅にまかせて出張。頼もしいですね。

藤井 彼女のメニューもなかなか評判。たとえば赤いパプリカの皮をむいて焼いてマグロ風のにぎり寿司にしてみたり、味噌フォンジュもね。

大塚 もどき料理、味も発想もおもしろいですよね。車麩の照り焼き肉風、うなぎのかば焼き風じゃがいもの磯辺揚げ、鶏のから揚げ風こんにゃくのピーナツ揚げなどなど。パリではどんな料理がうけましたか。

藤井 けんちん汁(精進汁)、それも大根が手に入りにくいのでカブを使ったのが、かえって甘味がでてよかったみたい。それに味噌を汁だけでなく、調味料としてドレッシングや煮物に使うことが新鮮だったみたい。

大塚 参加者かなり日本通?

藤井 茶道や禅などにも詳しい人など、かなりインテリが多くて食いつきがいいといいましょうか。料理のプロもいたし、主催者のジパンゴ・クラブ(角井尚子さん主宰)のメンバーということで地方からの参加者もありました。初級、中級、混合の3コースを3回9日間、延べ150人くらい。
ブルーターニュ産のわかめとかぶの酢のものやブロッコリーの酢味噌和えも好評でした。その土地にあるもので十分調理ができますね。

大塚 ヌーベル・ショウジン、いいですね。

藤井 仏教の教えに、人はその土地の自然の中で生かされている、身土不二(しんどふじ)という考え方があって、食べ物も地場のもの、旬のものを食べるのがよいとされています。外国で料理するときもその土地で手に入る食材で作るようにしています。それに味噌、醤油、ゴマなど今ではどこに行っても手に入りますしね。

大塚 まりさんは一昨年、還暦で自分へのご褒美よ、とシルクロード3か月の旅をされ、その後も、イタリア、米国、韓国などなど外国へ行かれて、そこで手に入る野菜などで精進料理を披露する。禅寺に伝わる伝統の精進料理というイメージからするとかなりフットワーク軽く、しかし、着実にまりさん流を築いている、プロの料理家として地歩を固めつつあるという感じがするのですが。

藤井 まだまだ、手探り。アバウトなのがいいと言われたりして。。。
うちの料理教室に来る若い人もマクロビ、ベジタリアンフードなんかに疲れちゃった、という人がいるの。あまり規則が厳しいと続かなくなるのね。それに料理教室でびしびし叱る先生というのもわたしにはなじまなくて。伝統の精進料理は修行食として厳しい戒律がありますが、文筆家で僧侶であった夫・宗哲のころからもっと親しみやすいものへと心がけてきました。

大塚 「ファッショナブル精進料理」や「精進料理辞典」はじめ数々の著書があり、宗哲和尚はその世界では先駆者的な存在で、それまた大変個性的な方、とお聞きしました。

藤井 はい、苦労もしました。夫は埼玉・平林寺、鎌倉・建長寺などで修業中に典座(てんぞ・台所役)を務め、自宅にしているここ、鎌倉・不識庵でも精進料理塾を20年以上やってきました。わたしは主婦として子育てをしながら、塾に来る皆さんと一緒にそれまでまったく知らなかった精進料理の心と作り方を勉強してきました。その夫が好きなお酒をたしなみ過ぎて・・・3年前に亡くなってしまったので。わたしの転機はそれより数年前にありましたが。

<主婦からプロの精進料理研究家へ>     

大塚 転機はいつごろだったんでしょう。

藤井 夫は後半、編集、文筆でかなり不規則 な働き方をしていた揚句に、体を悪くして入退院の繰り返し。それまでずっと夫を支えるという私の役目が変わってきて、夫がどうしても出れない時にわたし自身が表に出るようになったのです。大きく吹っ切れたのは、イタリアひとり旅とムックの出版。

大塚 すでに1992年には、中国に語学と料理研修で3か月滞在していたそうですが。

藤井 その当時は主婦をしながら地域で活動していて、さらにやはり何かしたかったんだと思います。夫の後押しもあって中国の精進料理や薬膳を少し勉強してきました。その後、地域でボランティア活動として日本語を教えたり。また、いろいろ窮地にたって一時は保険の営業のような仕事もして… でも、そこで、はたと思い直して自分のしたいこと、できそうなことを考える意味でも、思いきってひとりでイタリアに旅したのはよかった。1週間くらいでしたが、戻ってきたらすぐに出版社から料理のムック本を出してみないかというお誘いがあったのです。

大塚 それまでは宗哲和尚と共同で出版されていましたよね。この、「心にやさしい精進料理」(2002竹書房)が、まりさんの最初の本になったんですね。

藤井 料理紹介だけでなく精進パーティ、商品の紹介や対談などの企画も盛り込んだのですが、ここでいろいろ偶然の出会いがあったりして、人の輪が広がっていきました。

大塚 主婦から精進料理研究家として独立していく道を歩み始めた。

藤井 仕事としてきちんとプロ意識を持つようになるには少し時間がかかっています。
この10年くらいの間に各地で料理講習会などを開いていただいて、それをひとつずつきちんとこなし、お会いした方たちと親交を結んでいくということなどを繰り返しやっていくうちにやっとここまできたという感じですね。「食と心の問題」をライフワークにして講習や講演や重ねてきました。

大塚 英語版の精進料理の作り方とその由来や禅のことなどを紹介したまりさんの「the enlightened kitchen」(2005講談社インターナションナル)もできて、海外にも一挙にファンが増えましたよね。ロンドンにある料理本の専門書店(Books for Cooks)にも置いてあるし。

藤井 あそこでも一度、精進料理をやってみたいですよね、調理室がちゃんとあるんです。以前、栗原はるみさんがやってましたね。友人の紹介でこの3月はニューヨークでやりますので、その次はロンドンかな。

大塚 こうしてお話をうかがっていると、まりさんの味付けというのが少しわかってきたような気がします。みなさんが同じ野菜料理でも、この菜の花のお浸し、大根の油煮、酢味噌和えなど、まりさんの料理はいつもひと味違うのよね、というのですが、確かに酸いも甘いも入っているんですね、まりさんの半生が。

藤井 愛情、といってください。精進料理の家庭料理への普及ですから、それぞれ家庭の味、お母さんの味が出るんですよね。

大塚 えーと、精進料理をもっと家庭で男性がやったほうがいいですよね。肉とか魚料理だけでなく、野菜炒めだけでもなく。まりさんのお教室にもわずかですが、男性がいらっしゃいますよね。

藤井 定年になって習いたいとか、プロの方。確かにこれからもっと男性向けをやってもいいですね。もともとお坊さんがやっているのですから。

大塚 最後にわたしの日ごろの、小うるさい理屈をちょっと話して、まりさんの意見をうかがいたいのですが。
いま、コンサルとして“いなかプロジェクト”をしていて、定年帰農の誘いと有機・無農薬野菜などを生産しながら地域再評価・再発見を試みているのですが、その準備で去年、栃木県のアジア学院で数日、農業を体験。「食べることと命」がテーマで、ニワトリを絞めてスープや鶏肉をいただくといことも体験したのですが、その感想を主催者から聞かれて、食べることは、食べないこと、食べれないことでもある、みたいな感想をいいました。

藤井 なるほどね。

大塚 さまざまな理由で食べれない状況にいることを想像することが必要な気がしたのです、あのニワトリを見ながら、おいしいスープをいただきながら。

藤井 私たちの料理では、一物全体・殺生しない、を考えて料理をするんですね。動物は食べませんが、野菜など葉っぱからしっぽまで、かわまで全部をいただくことで、素材を無駄にしない、殺生しない、と考えています。ごみも少なくなるし、それがまた、いまでいうエコ料理にもなるんですよね。

大塚 野菜の水洗いの仕方、茹でる時の水の量、煮物の時のガスを止めるタイミング、余熱の活用など小林カツ代さんがエコクッキングをきちんと書かれていましたね。

藤井 そうですね。食糧の自給とか農業の応援などいろいろ考えていく必要があります。

大塚 そこで、わたしとしては食べることと、食べない・食べれないことにこだわって、料理研究家ももう少し料理数を減らしたらどうか、と変なことを考えるのですが… そういいながらもう一品サケの肴を作りたいと考えるわたしの内なるムジュンは別にしておいて。

藤井 私の場合、いま、精進膳としてお出ししているのは、一汁五菜とか六菜ありますが、これはあくまでもごちそう精進。そもそもお寺では修行食であり、大変粗食なものです。夫もよく言ってましたが、梅干しと麦粥で始まる朝食、そして昼も夜も菜食。それでも元気で3ヶ月くらいたつと顔の色つやもよくなって、皆さんつやつや。栄養士さんにうかがうと、精進料理は栄養学的には、普通より野菜が多い分、食物繊維、ビタミン、ミネラルが多く摂れるそうです。また、味噌、梅干し、たくあんなど発酵食品からの栄養もある。このような精進料理のこころ、ソウル・フードというように魂にふれるような食をもっと手軽に、広く知ってもらうことで、さまざまな料理を紹介し、食べていただいています。

大塚 工夫の料理ともおっしゃっていますが、素材が限られているので、その分、切り方、味や調理、盛り付けと工夫がいいですよね。

藤井 知恵の料理ともいってます。さまざまなバリエーションの中から、控えめに選んで食卓にのせ、無駄なく、おいしくいただくというのはいかがでしょうか。

大塚 はい、そうです。これからさらに、プロとしてビジネスベースでも発展していってほしいと思います。

藤井 起業をすると意識しないままにここまできてしまいましたが、やはりプロとして、仕事としてマネジメントしていくことは大切なんですよね。
地方にいる若い人たちが、食を考えながらレストランやカフェなど開いているので、時々応援に行きますが、食材にこだわり、地元のもの、日本のものを大事にしていく姿勢がいいですね。

大塚 いいものがいろいろある、それが地元だったり、地方であったり、日本という場所だったとなるといいですね。まりさんの最近の着物姿も身近に美しいものがあったという再発見と、海外で仕事をする時のプレゼンテーションということですね。
今日は長い時間ありがとうございました。お汁粉もおいしかったです。
(終り)