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起業の支援・
仕事の進化の対話編~3

 

今回は、NPO法人、アサーティブジャパン*(東京都国立市)の代表、森田汐生(しおむ)さんとの対話です。今月21日にはアサーティブネスの第一人者であるアン・ディクソンがイギリスから招へいして記念講演はじめ数々のワークショップを各地で展開、さらにアンさんの翻訳本の最新版も出版間近かという目いっぱいのスケジュールの中で“アサーティブな”楽しい対話をしてきました。

*アサーティブジャパン↓
www.assertive.org


<80年代はじめから>

大塚 汐生さんに始めて会ったのは20年くらい前でしたね、あなたは一橋大の学生のころかしら。わたしは地域のタウン紙の仕事をしていたころでアサーティブネスという言葉を初めて聞きました。

森田 そうですよね、長いお付き合いですね。大塚さんにはいつも節目、節目でお会いしているような気がする。女性センター(男女共同参画センター)で最初にアサーティブのトレーニングをやらせてもたったのも大塚さんとだったし、そこで発行していただいたブックレットは未だにベーシックな読み物となっています。また、わたしがスカラシップでフィリピンに1年間調査に行って、あちらから時々大塚さんに近況を知らせていたら、わたしの帰国直後に大塚さんがマニラでの仕事が始まりましたね。

大塚 そうそうフィリピンのときはわたしのほうがお世話になりました。こうしてずっとお付き合いができて嬉しいですね。

森田 その後、しばらくご無沙汰していたのですが、この5月にはアサーティブジャパンの総会で講演をお願いしたことで久々にお会いし、そしてアン・ディクソンの講演を直前にしてまたこうして話をする機会がありました。

<そもそもアサーティブネスとは>

大塚 ではまず、アサーティブネスとは一体、何ものなのでしょう。

森田 わたしたちアサーティブジャパンでは、こう定義しています。アサーティブネス(ASSERTIVENESS)とは「自分も相手も大切にするコミュニケーションのあり方」。きちんと話し合える人間関係を作るためのスキルです、と。

大塚 ケータイやメールのほうが便利という場合もあるけど、結局、不十分だったり、くどくなったりすると電話にしたり、顔見て話す、ということになりますね。でも特に感情の表現というのは、いくつになっても難しいな。

森田 感情を表すことと、感情の言語化とはイコールではないですからね。コミュニケーションパターンでは、攻撃的で自分の意見を押し通す「ドッカン」タイプ、自己犠牲的で我慢しがちな「オロロ」タイプ、そして攻撃性を隠して相手をコントロールする「ネッチー」タイプ。この3つに分けているんですが、人は状況や相手によってこの3つのどれかを行き来しがち。共通しているのは、本当に伝えたい気持ちを伝えてないということです。

大塚 それで、ストレスをためこんだり、人間関係をダメにしたり。アサーティブなコミュニケーションスキルでそこを変えていく?

森田 はい、スキルを使うことでコミュニケーションと人間関係は変わっていきます。しかしスキルだけではなく、スキルを使うときの心構えも大事です。

大塚 なるほど。そこは奥が深そう。汐生さんはかなり早い時期からどうしてまた、これをやろうと思ったの?

森田 わたしが、というより周りの先輩たちが、これはいい、やってみな、と背中をぐいぐい押してくれたからでしょうか。まず、大学2年が終わったところで1年間休学して、デンマークに行って勉強をしていたときに、アン・ディクソンの『A Woman in Your Own Right』という著書を通じてアサーティブネスを知りました。1986年のことです。卒業後は、現場で働くソーシャルワーカーになるための勉強をして資格を取りました。そのあと英国の精神医療機関で外国人のインターンを募集しているという情報を知り、応募してイギリスに3年間滞在しました。その間にアン・ディクソンのところでアサーティブネス・トレーナーの資格を取得してきた、というわけです。

<女性の先輩たち>

大塚 周囲に背中を押してくれた人たちがいろいろいたわけですね。

森田 そうなんです。特にそのころアサーティブネスへ高い関心を示してくれたのは現在、(株)アスク・ヒューマン・ケア代表の今成知美さん。わたしの帰国を待って、トレーニング・プログラムの開発やどこがセールスポイントになるかを一緒に考えてくれました。
それに学生時代からずっと、国立を中心に地域の障がい者運動の中心になっていた安積遊歩さんなど、強烈に刺激的な人たちと一緒にいたので、その影響もすごく受けました。

大塚 遊歩さんはほんと、その情熱と行動力には強力な磁気があって、わたしも随分と引き寄せられましたね。

森田 いま、わたしがあるのはそういう強烈な女性先輩の方々に鍛えられたからこそ。ほんと、それですね。

大塚 それはあなた自身が、世代を超えていろいろな人たちときちんと向き合う姿勢があったからこそでしょうね。
アサーティブネスを仕事としてやっていけると思い始めたのはいつからでした?

森田 それは、今成さんと一緒に始めたころからかな。彼女はアル―コール依存症の家庭に育った、いわゆるアダルト・チルドレン(AC)のための自己信頼とエンパワメントのプログラムにアサーティブが使えると思ったそうです。それで28歳のころから、今成さんのところで講座を始めました。そこの季刊誌にも連載するようになって、トレーニング・プログラムのさらなる開発がすすみました。
そのころ、アサーティブジャパンの事務局長である中野満知子さんとも出会って、99年の事務所開設の基礎を築きました。彼女は仕事と家庭をきちんとやる素晴らしい人でわたしを現在まで支えてくれている大事な人です。

<関心層は>

大塚 当時、どういうところにそのニーズがありました?

森田 障がい者グループから始まって、あとは口コミ、口コミで次々に講座の依頼が来るという感じでした。大塚さんと当時の横浜の女性センターで最初に講座をやったのが97,98年ころでしたよね。それをきっかけに女性センターからの依頼も一気に増えました。労働組合系もかなり多かったです。労組の女性リーダー養成や、働く女性たちのコミュニケーションのスキルとして、アサーティブネスの必要性をよく理解してくれています。
あと、医療、看護や福祉に携わる人たちからのニーズも多かったです。
この3つのセクターはいまも、ずっと変わらずに声がかかってきます。

大塚 いずれも、その変化が迫られ、その発信が必要なセクターであったんですね。あのころは、95年の北京会議(第4回国連世界女性会議)のあと、女性のエンパワメントが大きなキーワードのひとつになって女性問題解決への新たな流れの出発点になった。でもエンパワメントといってもいったい具体に、何をしたらいいのか、事業を企画をするのに、わたし、本当に苦心しました。でも何か事業を組めないか、女性をエンパワメントするとはどういうことなのか、ずいぶん議論を重ね、そうして具体化していった事業のひとつがアサーティブネスの講座だったんです。

森田 男女共同参画基本法も成立して、参画の施策が始まったがそのソフトがなかった。

大塚 そうです、それまでのように学習して、意識を喚起して、問題・課題の所在を明らかにして女性の現状を知る、からさらに次の一歩へ、という時にアサーティブネス・トレーニング!アサトレ!

森田 でもあのころ、アサトレを“アサシャン”なんていわれて、なかなかちゃんといってもらえなかったな。

大塚 カタカナ表記が氾濫してると指摘されて企画書や市へ提出する予算書などでも、大変だったわ。

<仕事の手応えは>     

大塚 仕事としてやれる実感を得てきたのはどのあたりからですか?

森田 企業から受託した講座は、1日10~15万円ということもあり、一時は年収1千万円くらいに。自分でも信じられなかったけれど、でもこれが自分のミッションと思って、相当厳しいスケジュールもこなしましたね。出張ばかりの日々でした。

大塚 30代半ばでそこまで行くというのは汐生さんの力ももちろんと、それだけ時代のニーズにあって、需要が多いということですよね。

森田 私は心理学やカウンセリングの専門家ではなくて、社会教育の立場からの出発でした。しかし、活動するにも個人では限界がある、自分が個人としてやっていることをもっと社会化することが自分のミッションではないか。そう思い始めたんです。

大塚 そして、特定非営利活動法人アサーティブジャパンの誕生となった。

森田 アサーティブの仕事をしながら、別のNPOの事務局長もまかされ、それも随分一生懸命やりました。やはりパワーのある女性先輩がいましたし、時代はNPO法成立直前。国内のさまざまな動きの中に投げ込まれた感じ。
そしてわたし自身は、04年にアサーティブジャパンをNPO法人にしました。

<勝間和代とアン・ディクソン>

大塚 この11月21日に開催する、ビッグ対談「社会変革とアサーティブネス」にはアン・ディクソンといま超売れすじの経済評論家・勝間和代のジョイントとは思いきった企画ですね。勝間さんとアサーティブネスとの接点は?

森田 勝間さんはご自分の著書『断る力』にもアサーティブネスについて書いていらして、仕事上も個人としても主体的に生きる、自己を確立する中で、コミュニケーションのスキルを磨くだけでなく人間としての大切な基本を見失わない、という立ち位置です。これはわたしたちのミッションにもつながると思い、超多忙なスケジュールのなかお願いして、今回の企画になりました。

大塚 夢のビッグ対談。ちょうど変わり目にきたいまの日本にぴったりだね。

<スキルの使い方のスキルが>

大塚 ところで、自分の意見や考えを伝える時に、よくはきはきしゃべる、わかりやすく表現する、笑顔を絶やさないなどコミュニケ―ションの方法、スキルがその手の指南書には詳しく載っていますね、口べたやシャイな人がどうプレゼンしたらいいかなどなど。

森田 アサーティブネスでは4つの柱、誠実であること、率直であること、対等であること、そして自己責任を軸としています。スキルだけではないということです。

大塚 それはかなり深い軸ですね。

森田 その生い立ちをたどると、60~70年代、米国ではアサーティブネスは少数者や女性など社会で差別を受ける側の人たちの権利獲得の中で生まれてきた経緯があります。最初に、スキルの背景に思想があると言ったのはこのあたりのこと。でも、残念なことにその後、欧米では商業的なトレーニングなどと結びついて、人を操作するようなスキルへと、間違った形で普及がされていきました。アンさんもそれを大変心配しています。私はここで、欧米の轍を踏みたくない。そのようなアサーティブネスには絶対させない、と決めています。

大塚 でも、まずは言い方とか態度とか、トレーニングで習得できるものがあるでしょ。

森田 もちろん。トレーニングによって勇気がでた、目からウロコが落ちた、と言ってくださる受講者がほとんどです。でも基礎や応用が終わった次の段階では、「対等性とは何か」について徹底した議論を4日間かけてやります。

大塚 難しそうだ。わたしはきっとついていけないかもね。なるほど。奥が深い。いまふうにさらりとスキルだけを身につけたい、そして資格を取りたい、といった向きには相当ヘビーな訓練ですね。
トレーナーの資格取得の希望は高い?

森田 うちみたいな小さな団体が認める資格なのに、ほかにトレーナー養成を行う団体がないことと、アサーティブネスへの関心が高まっているせいか、すごく希望者が多いんです。
わたしは質を維持して、安直なアサーティブネスにならないよう、ストッパーをかけるのがいまの役割。スキルを悪用させない、ということです。

大塚 スキルの使い方のスキル、それは確かにもう思想の領域に至るね。

   

<乱用、悪用はダメ>

大塚 欧米の例ばかりでなく、そうそう、こんな事例もありましたよね。オレがこんなにアサーティブに言ってるのにわからんのか、という暴力的な夫に対し妻の悲鳴があった。

森田 対等とは何か、を考える時、わたしの好きなメタsファーがあります。4本のはしごをまず、こうして書きますね。
一番左端のはしごを「所有」、次が「役割」、その次が「知識」そして最後が「カリスマ」とする。人はこのはしごのどこかの段に自分または他人を位置付ける。自分の所有はどうか、組織での役割や社会、家庭での役割はどうかと、ここでも位置付ける。知識は学歴なども含みます。カリスマはガンジーとか今なら、イチローでもいい。
そういうビッグな人になりたいとか、あこがれるなどのランキング。

大塚 なるほど。相手を見る時の判断要素としては社会的地位とか、どんな暮らし、経験や知識など、さらに場合によっては国籍もみますよね。そこに上下を付ける否定的な判断が入ると?

森田 自分は相手より上だとか下だとか、いずれも上下を付けて対等な関係ではなくなりがち。そのような人間関係では対等なコミュニケーションが生まれてこない、ということですね。
この4つのはしごの右側に一本水平な線を、こうして横に引くでしょ。
アンさんはこれを「水平な力」といい、4つのはしごに関係なく、ひとりの人間としてみる力という。それで、わたしたちは、この上下関係のはしごと水平の力と両方を見る目が必要なんだ!と。それによって、はしごの上下の力関係を相対化できる。

大塚 そうか、わかりやすい!眼力ですね。 相対化の力。

森田 でしょ。それでわたしは考えたんです。アサーティブネスのトレーナーにははしごのいろんな位置にいる人になってもらいたい。いかにも講師に向いているようなはしごの上の人ばかりなくてね。それによってこのはしごを相対化していく。アサーティブネスな存在であることで、その人の行動などをみて周囲が勇気付けられたり、気付くことができて変わっていく。それこそがアサーティブな力である、と。

<オンとオフ>

大塚 なるほど。ちなみに、この案内を見ていると、講座の受講料、少々、高めではないですか?

森田 それだけの内容と自負していますが、奨学金を出したりして、受講してほしい人への道はちゃんと開いているんですよ。スタッフはわたしのほかに7人、外部に契約トレーナーが70人くらい。年間予算7000万円前後で運営しています。

大塚 立派な事業体ですね。
女性の受講者がほとんどと聞いていますが。

森田 8割ほどでしょうか。男性も最近徐々に増えていて、一般の会社員から50代の管理職の人たちが多い。
これまでのプログラムは、社会的弱者と言われていた女性や障がいのある人対象を想定したものが中心でした。しかし男性や、社会的に上に立つ人からの需要が増えてくるにつれて、アサーティブネスは対等な人間関係についてさらに深めていく時期にきていると自覚しています。

大塚 そんな汐生さんが仕事を離れて気分転換するのはいつなの?

森田 休日は仕事のことは一切考えないで、パートナーとのおしゃべりやワンちゃんの散歩、近所への買い物かな。

大塚 さすがオフへの切り替えは上手ですね。ミッション型の人間と自分のことをいってましたが、まさにミッション一直線、目的に向かってぶれない。でも、そんな汐生さんでも、組織の代表として運営上も悩み多きことでしょう。時として先が見えにくくなったりすることがあるかもしれない。そんなときは、シュクシュクと日常の仕事をこなしていくことで、目的と方法の相対化を図るというのもありかもしれないね。
今日は有意義な対話の時間を本当にありがとうございました。
(終り)

追伸(11月22日付け)
ジョイント講演会「勝間和代&アン・ディクソン 社会変革とアサーティブネス」に行ってきました。ちょうど日本も社会や政治の変わり目にきつつあるのか、300人近い参加者で会場はいっぱいでした。
アンさんはアサーティブネスのたどってきた歴史を振り返りながら、世界的に広がるさまざまな格差のなかで、アサーティブネスのその本来の意義を発揮していく重要性を語っていました。特に、「個人の内側の力」personal power を弱める体験として、自己否定と自己欺瞞、絶え間ない批判、感情表現しないことなどをあげ、個人の内側の力を強める体験として、自分の不安に向きあい対処すること、感情表現と感情を言語化する方法を学ぶこと、不当な批判にきっぱりノーということなどなど提示していましたが、これは改めて励まされる内容でした。
勝間さんは、アンさんがアサーティブネスの奥の深さを示したのに対して、ぐ~んとその扉を左右に開いて間口を広くしたような感じでした。「断る力」をつけることから、最後には間違った考え方や社会に対してノーといえる力をもとう、というメッセージはパワフル“カツマー”そのものでした。

大塚 朋子
ICH05467@nifty.com